水圧転写(ハイドログラフィックス)とは?

水圧を利用して、複雑な3次元形状にデザインを転写する特殊印刷技術。
その仕組みと、他の加飾技術との違いをわかりやすく解説します。

曲面への印刷を可能にする技術

水圧転写(Water Transfer Printing)は、特殊なフィルムを水面に浮かべ、その上から対象物を沈めることで、水圧を利用してフィルムのインク層を対象物に密着させる技術です。

通常の印刷やシールではシワになってしまうような「曲面」「凹凸」「複雑な形状」に対しても、継ぎ目のない美しいパターンを施すことができるのが最大の特徴です。

複雑な形状に対応

3D曲面、凹凸、角のある製品でも隅々まで転写可能

多彩なデザイン

木目、カーボン、迷彩、幾何学模様など数千種類のパターン

高い耐久性

トップコートによる保護で、自動車外装にも使える耐久性

水圧転写の仕組み(プロセス)

STEP 01. フィルムの準備・水面展開

専用の水溶性フィルム(PVAフィルム)を水面に静かに浮かべます。フィルムは水に溶ける性質を持っており、インク層だけが水面に残る状態を作ります。

STEP 02. 活性化剤の塗布

水面に浮かんだフィルムに「活性化剤」をスプレーします。これによりフィルムのベース部分が溶解し、インクが液状化して水面に漂う状態になります。

STEP 03. 転写(ディッピング)

対象物を上からゆっくりと水中に沈めます。水圧によって液状化したインクが対象物の表面に均一に押し付けられ、複雑な形状にも隙間なく密着します。

STEP 04. 洗浄・乾燥

水から引き上げた後、表面に残った余分なフィルム成分(ぬめり)をシャワーで洗い流し、しっかりと乾燥させます。

STEP 05. トップコート(保護塗装)

最後にクリア塗装(トップコート)を施します。これによりインクを保護し、光沢感やマット感などの質感を与え、耐久性を飛躍的に向上させます。

他の技術との比較

比較項目 水圧転写 カッティングシート 塗装(単色) リアルカーボン
3D曲面への対応
非常に得意

シワになりやすい

可能

形状による
デザインの自由度
柄物・写真も可

柄物可

基本は単色

カーボン柄のみ
耐久性・耐候性
トップコートで保護

剥がれのリスク

高い

非常に高い
継ぎ目のなさ
目立ちにくい

継ぎ目が出る

継ぎ目なし

継ぎ目なし
コスト
中程度

安価(DIYなら)

中程度

非常に高価
量産性
高い

手作業

高い

低い

よくある誤解と真実

「シールみたいにすぐに剥がれるんじゃない?」

いいえ、剥がれません。水圧転写はインクを素材に直接定着させ、さらにその上から自動車のボディと同じような「トップコート(クリア塗装)」で保護します。そのため、爪で引っ掻いたり、雨に濡れたりしても剥がれることはありません。

「水に濡れるものには使えない?」

いいえ、問題なく使えます。施工工程自体が水を使うものであり、完成後は耐水性のあるトップコートで守られています。ルアーやボートのパーツ、自動車の外装など、水に触れる製品にも広く採用されています。

「どんな素材にもできるの?」

基本的には「水に浸けられるもの」「塗装ができるもの」であれば可能です。プラスチック(ABS, PPなど)、金属、木材、ガラス、セラミックなどに対応します。ただし、水に浮いてしまうほど軽いものや、水で変形・破損する素材(紙、布、一部の電子機器そのもの)には施工できません。